民泊許可の要件が厳しすぎる。なかなか広がらない民泊サービス。今後の国の方針はどうなる?

「民泊サービス」の制度設計のあり方について
(「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書)~

厚生労働省HPより参照転載~

 

平成28年6月20日
1
はじめに
○ 「民泊サービス」(この報告書で「民泊サービス」とは、住宅(戸建住宅、共
同住宅等)の全部又は一部を活用して、宿泊サービスを提供するものとする。
以下「民泊」という。)については、ここ数年、インターネットを通じ、空き室
を短期で貸したい人と旅行者をマッチングするビジネスが世界各国で展開され
ており、我が国でも急速に普及している。

 

 

○ こうした民泊については、急増する訪日外国人観光客のニーズや大都市部で
の宿泊需給の逼迫状況への対応といった観光立国の推進の観点や、地域の人口
減少や都市の空洞化により増加している空き家の有効活用といった地域活性化
の観点から活用を図ることが求められており、感染症まん延防止やテロ防止な
どの適正な管理、安全性の確保や地域住民等とのトラブル防止に留意したルー
ルづくりが求められている。

 

 

○ また、民泊を反復継続して有償で行う場合、我が国においては旅館業法の許
可が必要であるが、旅館業法の許可が必要であるにもかかわらず、許可を得ず
に実施される違法な民泊が広がっており、それらへの対応も急務である。

 

 

○ こうした状況を踏まえ、平成27年6月30日に閣議決定された「規制改革
実施計画」において、「インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅、別荘
等を活用した民泊サービスについては、関係省庁において実態の把握等を行っ
た上で、旅館・ホテルとの競争条件を含め、幅広い観点から検討し、結論を得
る」(平成27年検討開始、平成28年結論)こととされた。

 

○ これを受け、当検討会では、民泊に関するルール整備に向け、平成27年
11月から検討を開始し、事業者、関係団体、地方公共団体などの関係者から
ヒアリングを行いながら精力的に検討を重ね、本年3月15日に「中間整理」
を取りまとめた。更に、「中間整理」において整理した「中期的な検討課題」に
ついて、検討を進めてきたところである。

 

○ また、本年6月2日に閣議決定された「規制改革実施計画」において、当検
討会の検討状況も踏まえた、民泊についての枠組みが示された。

 

 

○ これらを踏まえ、このたび、これまでの計13回にわたる検討会での検討結
果として、「「民泊サービス」の制度設計のあり方について」報告書を取りまと
めたので、公表する。
2
Ⅰ 検討に当たっての基本的な視点と主な論点等
○ 当検討会は、以下の3点を検討に当たっての「基本的な視点」として掲げ、
検討を進めてきた。
① 衛生管理面、テロ等悪用防止の観点から、宿泊者の把握を含む管理機能
が確保され、安全性が確保されること。
② 地域住民とのトラブル防止、宿泊者とのトラブル防止に留意すべきこと。
③ 観光立国を推進するため、急増する訪日外国人観光客の宿泊需要や、空
きキャパシティの有効活用等地域活性化などの要請に応えること。

 

 

○ その上で、検討に当たっては、旅館・ホテルとの競争条件、地域ごとの宿泊
需給の状況、規制内容や方法に対応した自治体の体制等に留意しつつ、民泊の
必要性・位置付け、民泊と旅館業法等関連法令との関係、仲介事業者の位置付
け・役割、仲介事業者と旅行業法との関係等を論点として、検討を進めてきた。
Ⅱ これまでの対応策-現行制度の枠組みの中での対応-

 

○ 本来必要な旅館業法の許可を得ていない違法な民泊が広がっているため、こ
の状況に早急に対応する必要がある。このような認識の下、当検討会の「中間
整理」において、「早急に取り組むべき課題と対応策」として、簡易宿所の枠組
みを活用した旅館業法の許可取得促進のための提言を行った。この提言を踏ま
え、関係省庁において、これまで以下の対応策が実施されてきた。

 

 

○ 旅館業法施行令が改正され、簡易宿所営業の客室延床面積の基準について、
33㎡以上とされていたところ、宿泊者数を10人未満とする場合には、宿泊
者数に応じた面積基準(3.3㎡×宿泊者数以上)とするよう緩和された(本
年4月1日施行)。

 

 

○ 厚生労働省の通知が改正され、簡易宿所営業において宿泊者数を10人未満
とする場合には、宿泊者の本人確認や緊急時の対応体制など一定の管理体制が
確保されることを条件として、玄関帳場の設置を要しないこととされた(本年
4月1日施行)。

 

 

○ 本年4月1日付けの厚生労働省の通知及び同月27日に開催された自治体担
当者向け説明会において、厚生労働省から、上記の簡易宿所営業における基準
緩和措置の趣旨の説明がなされるとともに、当該措置の趣旨を踏まえた条例の
弾力運用や改正等を必要に応じて行うことが要請された。
3

 

 

○ 民泊を行う場合においても、反復継続して、宿泊料とみなすことができる対
価を得て人を宿泊させる場合には、原則として、旅館業法の許可を取得するこ
とが必要であることや上記の簡易宿所営業における基準緩和措置の内容を分か
りやすく取りまとめたQ&Aが厚生労働省において作成され、本年4月1日に
各自治体に通知されるとともに、厚生労働省のホームページに掲載された。

 

 

○ また、厚生労働省・観光庁連名で、海外の民泊仲介サイトの運営事業者に対
し、文書により、民泊サービスの適正な実施を図る観点から、民泊を反復・継
続して有償で行う場合には原則として旅館業法の許可が必要であることの周知、
簡易宿所の営業許可基準の緩和措置を踏まえた許可取得についての登録ホスト
等への呼びかけなどが要請された。

 

 

○ 簡易宿所の許可の枠組みの活用が図られるよう、実態の把握を図りつつ、引
き続き、制度のより一層の周知や自治体への協力要請等に努めるべきである。
Ⅲ 民泊の制度設計のあり方について

 

 

○ 民泊について、急増する訪日外国人観光客の宿泊需要に対応するための宿泊
施設の供給という観点、地域の人口減少や都市の空洞化により増加している空
き家の有効活用といった地域活性化の観点、日本の暮らしや文化を体験したい
といった多様な宿泊ニーズに対応した宿泊サービスの提供という観点など様々
な観点から、その必要性(ニーズ)が指摘されている。

 

 

○ 民泊に対するこうした様々なニーズに応えつつ、宿泊者の安全性の確保、近
隣住民とのトラブル防止などが適切に図られるよう、旅館業法等の現行制度に
おける規制のあり方を見直しつつ、仲介事業者等に対する規制を含めた制度体
系を構築すべきである。

 

 

○ そこで、適切な規制の下でニーズに応えた民泊を推進することができるよう、
以下の枠組みにより、類型別に規制体系を構築することとし、早急に法整備に
取り組むべきである。

 

 

1.基本的な考え方
(1)制度目的
民泊の健全な普及、多様化する宿泊ニーズや逼迫する宿泊需給への対応、空
き家の有効活用など

 

4
(2)制度の対象とする民泊の位置付け
住宅を活用した宿泊サービスの提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に
利用させるもので、「一定の要件」の範囲内で、有償かつ反復継続するものとす
る。
「一定の要件」を超えて実施されるものは、新たな制度枠組みの対象外であ
り、旅館業法に基づく営業許可が必要である。

 

 

(3)制度枠組みの基本的な考え方
「家主居住型」と「家主不在型」に区別した上で、住宅提供者、管理者、仲
介事業者に対する適切な規制を課し、適正な管理や安全面・衛生面を確保しつ
つ、行政が、住宅を提供して実施する民泊を把握できる仕組みを構築する。

 

 

(4)法体系
この枠組みで提供されるものは住宅を活用した宿泊サービスであり、ホテ
ル・旅館を対象とする既存の旅館業法とは別の法制度として整備することが適
当である。

 

 

 

2.家主居住型(ホームステイ)に対する規制について

 

 

○ 「家主居住型(ホームステイ)」とは、住宅提供者が、住宅内に居住しながら
(原則として住民票があること)、当該住宅の一部を利用者に利用させるものを
いう(この場合、住宅内に居住する住宅提供者による管理が可能)。

 

 

○ 住宅提供者は、住宅を提供して民泊を実施するに当たり行政庁への届出を行
うこととする(家主不在型も同様)。

 

 

○ 住宅提供者には、利用者名簿の作成・備付け(本人確認・外国人利用者の場
合は旅券の写しの保存等を含む。)、最低限の衛生管理措置、簡易宿所営業並み
の宿泊者一人当たりの面積基準(3.3㎡以上)の遵守、利用者に対する注意
事項の説明、住宅の見やすい場所への標識掲示、苦情への対応、当該住戸につ
いての法令・契約・管理規約違反の不存在の確認等を求め、安全面・衛生面を
確保し、匿名性を排除する。また、無登録の仲介事業者の利用の禁止を求める
べきである(家主不在型も同様)。

 

 

○ また、法令違反が疑われる場合や感染症の発生時等、必要と認められる場合
の行政庁による報告徴収・立入検査、違法な民泊(「一定の要件」に違反した民
泊や、家主居住型と偽って家主不在型の民泊を提供するもの等)を提供した場
合の業務の停止命令等の処分、無届で民泊を実施したり、上記の義務に違反す
るなどの法令違反に対する罰則等を設けることを検討すべきである(家主不在
型も同様)。

 

5
住宅提供者は、行政庁からの報告徴収等に応ずることはもとより、行政当局
(保健衛生、警察、税務)の求めに応じて必要な情報提供を行うべきである。
※ 住宅提供者が仲介事業者を利用せず、自ら利用者を募集する場合についても、本報告
書の制度設計のあり方に沿って取り扱うべきである。

 

○ 宿泊拒否制限規定は設けない(家主不在型も同様)。

 

 

3.家主不在型に対する規制について(管理者規制)

 

 

○ 「家主不在型」の民泊(出張やバカンスによる住宅提供者の不在期間中の住
宅の貸出しは家主不在型と位置付け)については、家主居住型に比べ、騒音、
ゴミ出し等による近隣トラブルや施設悪用等の危険性が高まり、また、近隣住
民からの苦情の申入れ先も不明確である。

 

 

○ そこで、「家主不在型」の民泊については、住宅提供者が管理者に管理を委託
することを必要とし、適正な管理や安全面・衛生面を確保する。

 

 

○ 管理者は行政庁への登録を行うこととする(住宅提供者自らが管理者として
の登録を受ければ、自宅で、家主不在型の民泊を提供することも可能)。

 

 

○ 管理者による住宅提供者の届出手続の代行を可能とすることを検討すべきで
ある。

 

 

○ 管理者は、住宅提供者からの委託を受けて、利用者名簿の作成・備付け(本
人確認・外国人利用者の場合は旅券の写しの保存等を含む。)、最低限の衛生管
理措置、簡易宿所営業並みの宿泊者一人当たりの面積基準(3.3㎡以上)の
遵守、利用者に対する注意事項の説明、住宅の見やすい場所への標識掲示(国
内連絡先を含む。)、苦情への対応、当該住戸についての法令・契約・管理規約
違反の不存在の確認等を行う。

 

 

○ また、法令違反が疑われる場合や感染症の発生時等、必要と認められる場合
の行政庁による報告徴収・立入検査、上記業務を怠った場合の業務停止命令、
登録取消等の処分、法令違反に対する罰則等を設けるべきである。
管理者は、行政庁からの報告徴収等に応ずることはもとより、行政当局(保
健衛生、警察、税務)の求めに応じて必要な情報提供を行うべきである。

 

 

6
4.仲介事業者規制について

 

 

○ 民泊(家主居住・不在型いずれも含む。)に係る仲介事業者は行政庁への登録
を行うこととし、仲介事業者には消費者の取引の安全を図るため、取引条件の
説明義務や新たな枠組みに基づく民泊であることをサイト上に表示する義務等
を課すべきである。

 

 

○ また、行政庁による報告徴収・立入検査、違法な民泊(無届の家主居住型民
泊、登録管理者不在の家主不在型民泊、「一定の要件」に違反した民泊等)のサ
イトからの削除命令、違法な民泊であることを知りながらサイト掲載している
場合の業務停止命令、登録取消等の処分、法令違反に対する罰則等を設けるべ
きである。
仲介事業者は、行政庁からの報告徴収等に応ずることはもとより、行政当局
(保健衛生、警察、税務)の求めに応じて必要な情報提供を行うべきである。

 

 

○ 外国法人に対する取締りの実効性確保のため、法令違反行為を行った者の名
称や違反行為の内容等を公表できるようにすることを検討すべきである。

 

5.一定の要件について

 

○ 上記の「一定の要件」としては、既存の旅館、ホテルとは異なる「住宅」と
して扱い得るような合理性のあるものを設定することが必要である。

 

 

○ そのような「一定の要件」としては、年間提供日数上限などが考えられるが、
「住宅」として扱い得るようなものとすることを考慮すると、制度の活用が図
られるよう実効性の確保にも配慮しつつ、年間提供日数上限による制限を設け
ることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適切な日数を設定
する。なお、その際、諸外国の例も参考としつつ、既存のホテル・旅館との競
争条件にも留意する。

 

○ 「住宅」として扱い得るような「一定の要件」が設定されることを前提に、
住居専用地域でも実施可能とすべきである(ただし、地域の実情に応じて条例
等により実施できないこととすることも可能)。

 

○ 「一定の要件」が遵守されているかのチェックのため、住宅提供者又は管理
者に報告などを求めるべきである。

 

7

 

6.所管行政庁について
○ 民泊は住宅を活用した宿泊の提供という位置付けのものであること、仲介事
業者に対する規制の枠組みを設けること、感染症の発生時等における対応が必
要であること等にかんがみれば、国レベルにおいては、国土交通省と厚生労働
省の共管とすることが適当である。

 

○ 地方レベルにおいても、関係部局が複数にまたがることが想定されるが、国
民にとって混乱のないよう窓口は明確にした上で、関係部局間での必要な情報
連携が図られる方向で整理すべきである。

 

 

○ なお、新たな民泊制度の実施に当たり、保健所その他関係機関における体制
強化について、民間への事業委託の積極活用を含め検討すべきである。

 

 

7.その他

 

 

○ 制度設計の具体化に当たっては、規制の実効性を担保することができるよう、
必要な措置を更に検討すべきである。また、地域の実情に配慮することも必要
である。

 

 

○ その際、法制上の措置のみならず、利用者の安全・安心のため、例えば、住
宅提供者に損害保険への加入を促すことなどガイドラインによる対応も組み合
わせて検討すべきである。

 

 

○ 「届出」及び「登録」の手続はインターネットの活用を基本とし、マイナン
バーや法人番号を活用することにより住民票等の添付を不要とすることを検討
するなど、関係者の利便性に十分配慮する必要がある。

 

○ 新たな枠組みに基づく制度の実施に当たっては、その施行のための準備期間
について配慮が必要である。また、国民や関係事業者等に対する制度の周知・
啓発等に努めるべきである。

 

○ 法律の施行後、その状況に応じた見直しを必要に応じて行う旨を法律上明記
すべきである。

 

 

○ なお、民泊を推進する手法のひとつとして、国家戦略特区制度の活用が考え
られるが、今後、特区制度をどのようにしていくかについては、まずは実施状
況の検証結果を踏まえることが必要ではないかと考えられる。

 

 

8
Ⅳ.ホテル・旅館に対する規制等の見直し

 

○ 既存のホテル・旅館に対する規制の見直しについても、民泊に対する規制の
内容・程度との均衡も踏まえ、早急に検討すべきである。また、民泊に係る法
整備と併せ、旅館業法の改正についても検討すべきである。具体的には以下の
ような点が挙げられる。

 

 

○ 近年、旅館とホテルを区別することの合理性が薄れてきていることから、旅
館業法に基づく営業許可を一本化することや許可基準のあり方について検討す
べきである。

 

 

○ 宿泊拒否の制限規定については、既存のホテル・旅館について今日的意義が
薄れているのではないかとの指摘があることにかんがみ、不当な差別的取扱い
がなされないことに留意しつつ、合理的なものとなるよう見直す方向で検討す
べきである。

 

 

○ 旅館業法に基づく営業許可を受けずに営業を行っている者(以下「無許可営
業者」という。)その他旅館業法に違反した者に対する罰則については、罰金額
を引き上げる等実効性のあるものに見直すべきである。

 

 

○ また、無許可営業者に対する報告徴収や立入調査権限を整備することについ
ても併せて検討すべきである。

 

 

○ 旅館業法の許可に当たり、賃貸借契約、管理規約(共同住宅の場合)に反し
ていないことを担保できるような措置について、検討すべきである。

 

 

○ 旅館業法以外の法令においても、既存のホテル・旅館に対する規制の見直し
について、民泊に対する規制の内容・程度との均衡も踏まえ、早急に検討すべ
きである。
Ⅴ おわりに

 

 

○ 当検討会では、関係者からヒアリングを行いながら、民泊の制度設計のあり
方について具体的に検討を重ね、本報告書を取りまとめた。関係省庁において
は、本報告書を踏まえ、今後も関係者の意見を十分に尊重しながら引き続き検
討を進め、法整備その他の必要な対応に早急に取り組むことを期待する。